最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)1023号 判決 1968年5月31日
上告人
新見輳資候
右代理人
奥村仁三
被上告人
石井その
ほか一名
右両名代理人
奥嶋庄治郎
主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
職権をもつて調査するに、本訴において、被上告人らは、訴外亡新見やうから、その所有の本件建物について、各持分二分の一の割合による遺贈を受けたところ、同人の死亡によりその効力を生じたものと主張して、やうの相続人である上告人に対し、右遺贈を原因とする共有持分二分の一ずつの所有権移転登記手続を求めるものであるが、記録によれば、上告人は、原審第一一回口頭弁論期日に、その提出にかかる昭和四一年一一月一五日付準備書面に基づいて、右遺言に際して訴外瀬尾伊太郎が遺言執行者に指定されたが、その後、昭和四〇年一月一三日に名古屋家庭裁判所において、同人は遺言執行者の地位を解任され、弁護士林武雄が遺言執行者に選任された旨を主張していることが明らかであり、また、成立に争のない甲第一号証(公正証書)および原審における証人瀬尾伊太郎の証言に徴すると、前記遺言に際して、瀬尾伊太郎が遺言執行者に指定されたが、同人はその後解任された、原審における口頭弁論の終結時においては、さらに遺言執行者に選任された者が存在する事実を窺わせるに足りるのである。
ところで、遺言の執行について遺言執行者が指定されまたは選任された場合においては、遺言執行者が相続財産の、または遺言が特定財産に関するときはその特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、相続人は相続財産ないしは右特定財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできないこととなるのであるから(民法一〇一二条ないし一〇一四条)、本訴のように、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴において、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであつて、相続人はその適格を有しないものと解するのが相当である(大審院昭和一四年(オ)第一〇九三号、同一五年二月一三日判決、大審院判決全集七輯一六号四頁参照)
してみると、本件の遺言について、遺言執行者が存在するものであるならば、原審としては、本訴は被告の適格を欠く者に対する訴としてこれを却下すべきものであつたものといわなければならず、前記のように、遺言執行者の存在することを窺うに足りる証拠が存在するのに拘らず、これを顧慮しないで本案の判断をした原判決には、職権によつて調査すべき当事者適格に関する事項に関し審理を尽さなかつた違法があるから、論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右遺言執行者の存否についてさらに審理を尽し、これを確定させるのを相当とするから、原審に差し戻すべきものとする。
よつて、民訴法第四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎)